法人成りで後悔しない為に知っておいて欲しいメリット・デメリット
今回は法人成りで後悔しない為に知っておいて欲しいメリット・デメリットについてです。
税理士事務所で勤務しているので、どういった時に法人成りを勧めるのか、法人成りしたいと言われた場合にどういった説明をするのかなどを踏まえて解説していきます。
すでに個人事業主の方や、法人で始めるべきか個人事業主で始めるべきか悩んでいる人に役立つかと思います。
法人成りとは
まずは基本の法人成りの意味から解説していきます。
法人成りとは
「個人事業主の方が今の事業を引き継ぎ、法人を立ち上げる」という意味で使われます。
少しかみ砕いて説明すると、個人事業を廃業して会社になる。すなわち社長になるという事です。一般的には代表取締役社長と言われます。見た感じでも肩書がしっかりしますよね。
ちなみに法人には種類があるのですが、今回は株式会社のパターンで進めていきます。合同会社は基本的には同じですが、メリットとデメリットに一部違う箇所があります。今後、これについては記事を書く予定ですので、投稿次第リンクを貼っておきます。
法人成りした場合に変わる事
個人事業主の時は原則3月15日までに確定申告書(所得税)を提出していたと思います。
これが法人になると法人税申告書などを提出するように変わります。※ややこしくなるので法人税申告書などと書きましたが、これも確定申告書(法人税)と言います。
提出期限は決算日から2ヶ月以内で、この決算日は設立から1年を超えない範囲で自由に決めてください。
法人成りのメリット
前置きはこのくらいにして早速、法人成りのメリットについて見ていきましょう。
社会的信用が上がる
社会的信用が上がると言われてる理由としては、会社として事業所の住所や代表者の名前を登記しなくてはいけません。それに登記してしまえば、履歴事項全部証明書や法人番号検索サイトなどで本当に実在するのか確認することが出来ます。
それに登記するにあたって費用が掛かり、法人名や住所を変えるにしても登記を変更しなくてはいけないので、個人事業主と違い簡単に変えるという訳にもいきません。
他にも理由はあると思いますが、個人事業主と比べると法人の方が法律に縛られるため社会的信用が高いのです。
そして社会的信用が高い事の何がメリットなのかというと
・個人事業主より法人の方が仕事を受けやすくなる
・銀行や日本政策金融公庫からの融資が受けやすくなる
・補助金や助成金の受けやすさや金額の上限額が高い。
分かりやいところで行くとこんな感じです。
個人事業主時代より経費に出来る幅が広くなる
分かりやすいのは役員報酬ですね。
代表者に払う分は当たり前として、他の親族の方なども役員登記しておけば専従者給与と違い他で仕事をしていても役員報酬を支給することが可能です。
もちろん仕事を手伝ってもらっている、会社に関わっていることが前提です。
後は家を法人で契約して代表者に貸し出した場合、賃料相当額を貰う必要がありますが個人事業主時代よりは経費に出来る割合が大きくなるはずです。ただ賃料相当額の計算は固定資産税評価証明書などが必要になり、計算も少し難しいので税理士さんにお願いしましょう。
No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁 (nta.go.jp)
他にもありますが、少しグレーだったりするので個別に税理士さんへ相談しながら進めるのがおススメです。
税金の計算方法が変わる
個人事業主時代は所得税・事業税・消費税・国民健康保険・国民年金・住民税この辺りだと思います。
これが法人になると、法人税・法人市町村民税・法人都道府県民税・事業税・消費税。この4つが法人で支払う税金になり、法人からもらった役員報酬に応じて、所得税・社会保険料・住民税がかかります。
上記の図の赤字を見てもらいたいのですが、個人事業主時代は利益に所得税や住民税がかかり、法人成りすると個人に支払った役員報酬分に応じて所得税や住民税などがかかります。
ここでのポイントは、所得税は所得に応じて税率が上がっていきますが、法人にかかる税率は上がっても所得税に比べて低い率で止まります。所得税が基準の金額を超えた段階で法人成りをし、役員報酬と併せてコントロールする事で、「法人+個人に残るお金>個人事業主として手元に残るお金」になり、節税になると言われています。
No.2260 所得税の税率|所得税|国税庁 (nta.go.jp)
No.5759 法人税の税率|国税庁 (nta.go.jp)
総務省 法人住民税・事業税.pdf (soumu.go.jp)
今回は説明を省いていますが、従業員の有無で社会保険の負担が変わったりと他の要因もあるので単純に税額だけで比較できる訳ではありませんので注意が必要です。
負債に対する支払い義務の範囲が決まってくる
もしお金が足りなくなりどうしようもなくなった場合、株式会社の場合は破産手続きをして会社にある資産を優先順位にそって分配し終わりになります。個人で連帯保証人などになっていなければ、社長だからと言って個人の資産まで使って支払う必要はありませんが資本金などの出資金は戻ってきません。
これを有限責任と言います。
あくまでどうしようもなくなった場合の処置なので、計画的にお金を逃がして破産をしようとしても、その財産は会社に戻してもらう必要がある事と場合によっては罪に問われますので気を付けてください。
法人成りのデメリット
ここからはデメリットになります。
一部はメリットの部分と相反するものもありますので、どうしてそうなるのか理解することが大事になってきます。
赤字でも固定の税金が発生する
個人事業主の場合で赤字になる事はかなり少ないと思いますが、法人の場合は役員報酬の設定などで赤字になることがあります。
赤字になった場合、個人事業主は所得税や住民税などかかりませんし、国民年金や国民健康保険料も軽減や免除など受けられると思いますので、ほとんど税金はかからなくなります。まぁ、赤字という事は収入がなく支払いの方が多いという解釈になりますので、貯蓄がなければ生活が出来ないので当然ですね。
ただ法人の場合は赤字になっても、所在地の都道府県と市区町村へ税金が発生します。これを均等割りというのですが、これに赤字だからと言って軽減や免除はありません。それぞれ設定金額が場所によって違うのですが、都道府県は20,000円前後・市区町村は50,000か60,000円払う必要があります。
申告が難しくなるし、お金がかかる
個人の確定申告と違い、法人の場合は国税庁に作成コーナーなどがないので自前のソフトを使うか、税理士さんに頼むかどちらかになるかと思います。
完全自力で作るんだ!と言われる方はこちらをどうぞ…。
令和4年4月以降に提供した法人税等各種別表関係(令和4年4月1日以後終了事業年度等又は連結事業年度等分)|国税庁 (nta.go.jp)
パッと見てもらったら分かる通り、申告書に関係するものは沢山は多くどれをどういう風に書いたらいいか分かりにくいです。また、申告時に提出や適用をしていないものが有れば税金が高くなったりと大変目にあいます。
これは税理士さんでも間違っていたり漏れていたりすることもあるので、勉強をしていない方が自力で作成する事のハードルは非常に高いです。
基本的には法人成りすると税理士さんに依頼することになるので出費が増えます。自力で作成するにしても会計ソフトや申告書作成ソフトなどが必要になると思いますのでお金がかかります。
会社にあるお金は自由に使えない
今までは稼いだお金を個人の生活費などに使っても経費にしてなければ問題ありませんでした。それが法人成りすると話が変わってきます。
少し理解しにくいかもしれませんが、今後のお金や資産は法人のものになります。
自分が株主なので会社は自分のものだし、好きに使っていいでしょ?と言われれば、間違ってはないのですが、取り方に気を付けなければいけません。
役員報酬以外であれば、株主配当くらいしか支給する方法はありませんので、後は貸付金などになります。貸付金になると利息も取られるので、普通に借金をしているのと変わりありません。
役員報酬以上にお金を持っていこうとするのには注意してください。
会社を辞める時や相続時にお金がかかる
おそらく法人成りの一番面倒な部分になります。
赤字や利益がトントンくらいで来ていればさほど問題ないのですが、毎年黒字が出ている場合は会社に資産が貯まっている状態になります。
そして会社をたたむ場合は残った資産を債権者や株主に分配します。その際に分配された資産に応じて税金がかかります。これも個人事業主と違う点になります。
ただ、これはある程度計算して会社を辞めると思うので大丈夫なのですが、問題は株を渡す時や亡くなった場合です。
計算式は複雑なので割愛しますが、会社に資産が貯まっていくとそれに比例して1株の株価も上がっていきます。そしていざ、世代交代や相続時に株を譲渡することになる時に株価を計算すると大変なことになります。
税務調査の確率が上がる
一般的に個人事業主より法人の方が調査に入られやすくなります。
これは国税庁が令和4年に公表した調査のデータを見ると
法人の調査確率は約1.3%
個人の調査確率は約0.5%
おおよそ2.6倍の差があります。
詳しい数字は国税庁のHPに記載されています。
令和3事務年度 法人税等の調査事績の概要|国税庁 (nta.go.jp)
令和3事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について|国税庁 (nta.go.jp)
気になる方は見てみてください。
まとめ
まずはどうして法人成りしたいのかを軸にメリットとデメリットを照らし合わせてください。
仕事を貰うために法人成りするしかないのか、手元にお金が残るように法人成りするのか、色々な理由があるはずです。そのためにデメリットまで含めて受容出来るのかが大事だと思いますので、よく考えてみてください。
また法人成りする場合は、まず税理士さんに相談することも重要です。
税金の計算に関しては税理士さんの独占業務になるので、他の方ではできません。
法人成り後に顧問契約すると相談料は掛からないというところもあるので、とりあえず電話やメールで問い合わせてみてください。その時の対応も税理士さんを選ぶ時のポイントになります。
税務相談以外で質問があれば自分に聞いてもらっても大丈夫なので、DMを送っていただければ対応します。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
今後の発展をお祈りしております。