経理は売り手市場か|AI活用で差がつく転職戦略
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「人手不足だから経理も売り手市場だろう」——転職を考えるとき、そう思って情報を探す方は多いと思います。ところが実際に公的な統計を見ると、経理の求人状況は世間で言われる「売り手市場」とはかなり違う姿をしています。
経理(会計事務)は統計上は売り手市場ではありません。求職者の数に対して求人のほうが少ない状態が続いています。ただしこれは「経理の仕事が消えた」という意味ではなく、「誰でもいい枠」が減っただけです。いま採用側が探しているのは、手を動かすだけの人ではなく、仕組みを整えられる人。なかでもAIエージェントを業務に落とし込める人は、経理の現場でまだ多くありません。
この記事では、税理士事務所で10年、多くの会社の経理を見てきた立場から、公表統計をもとに経理の求人状況を確認したうえで、いま何を身につければ選ばれる側に回れるのかを解説します。
統計で見ると、経理は売り手市場ではない
まず事実から確認します。厚生労働省が毎月公表している「一般職業紹介状況」には、職業別の有効求人倍率が載っています。
有効求人倍率とは、求職者1人あたりに何件の求人があるかを示す数字です。1倍を超えていれば求人のほうが多い(売り手市場)、1倍を下回れば求職者のほうが多い(買い手市場)と読みます。
| 職業 | 有効求人倍率 | 読み方 |
|---|---|---|
| 会計事務従事者 | 0.56倍 | 求職者約2人に求人1件 |
| 一般事務従事者 | 0.28倍 | 求職者約4人に求人1件 |
| 職業計(全体) | 1.01倍 | ほぼ1対1 |
| 情報処理・通信技術者 | 1.33倍 | 求人のほうが多い |
出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」参考統計表・常用(パート含む)。以下の数値も同じ資料によります。
会計事務従事者は0.56倍。全体(1.01倍)の半分程度です。求職者2人に対して求人が1件しかない計算になります。少なくともハローワークに寄せられる求人で見る限り、経理は売り手市場ではありません。
- この統計はハローワークの求人・求職を集計したものです。転職エージェントや求人サイトの募集は含まれていません
- そのため実際の求人はこれより多くありますが、職業どうしを比べる目安としては有効です
- 月次で公表されるため数字は毎月変わります。最新の数値は厚生労働省のページでご確認ください
しかも、求人は前の年より減っている
同じ資料には前年同月比も載っています。会計事務従事者はこうなっています。
- 新規求人 6.3%減
- 有効求人 7.9%減
- 有効求人倍率 0.05ポイント低下
一方で新規求職者は6.7%増えています。求人が減り、応募する人が増えているため、倍率はさらに下がっている状況です。
なぜ経理の求人が減っているのか
ここからが本題です。求人が減っている理由を「不景気だから」で片づけると、対策が立ちません。事務所から多くの会社を見てきた実感として、理由ははっきりしています。
入力作業そのものが減っている
ここ数年で、経理の現場は目に見えて変わりました。
- 銀行明細・クレジットカードの自動取込——通帳を見ながら手入力する作業がほぼ不要になりました
- 請求書・領収書の読み取り——スキャンやスマホ撮影から、日付・金額・取引先が自動で起票されます
- 電子帳簿保存法への対応——電子でやり取りしたデータは電子のまま保存する必要があり、紙の保管作業自体が減りました
つまり「伝票を起こす」「数字を打ち込む」だけの仕事量が、会社全体で減っています。求人票で「経理事務」「経理補助」と書かれる層の枠が縮んでいるのは、この影響が大きいと考えられます。
誤解されやすいところですが、減っているのは入力という作業であって、経理という仕事ではありません。実際、自動で取り込まれた仕訳が正しいかを判断する仕事はむしろ増えています。自動化は判断まで肩代わりしてくれないためです。
採用側が困っているのは「入力できる人」ではない
会社側の話を聞いていると、募集の動機が以前と変わってきています。「人手が足りない」ではなく、「仕組みを整えられる人がいない」という相談が増えました。
具体的には、こうした場面です。
- 会計ソフトを入れたが、設定が中途半端で結局は手作業が残っている
- 自動で取り込まれた仕訳を、誰も検証しないまま決算を迎えてしまう
- 電子取引データの保存方法が決まっておらず、担当者ごとにやり方が違う
- 紙とデータが混在していて、どちらが正なのか分からない
どれも入力の速さでは解決しない問題です。ここが、いまの経理転職で狙うべきところだと考えています。
いま攻めるならIT・自動化の側面から
倍率0.56倍という数字は、裏を返せば応募者の大半が同じ土俵で戦っているということでもあります。「簿記を持っています」「入力ができます」で並ぶと、2人に1人は落ちる計算です。
そこから抜けるには、減っている仕事ではなく、増えている仕事の側に立つのが近道です。先ほどの統計で、情報処理・通信技術者が1.33倍だったことを思い出してください。会計事務の倍以上あります。経理とITの重なる部分は、まさにその需要が向かっている方向です。
いちばん差がつくのは「AIエージェントを使えること」
結論から言うと、いま最も差をつけられるのはAIエージェントを実際の業務に落とし込める人です。ここを先に挙げるのには理由があります。
会計ソフトの操作も、表計算の集計も、できる人はすでに大勢います。倍率が1倍を割る市場では、多くの人ができることを並べても決め手になりません。一方でAIエージェントを業務で使える人は、経理の現場ではまだ多くないのが実感です。
質問に答えるだけの対話型AIと違い、指示にもとづいて実際に作業まで行うAIを指します。ファイルを読んで集計する、決まった形式に整える、繰り返しの処理を自動化する——といったことを、プログラムを書かずに任せられます。Claude CodeやCursorといったツールがこの分野にあたります。
なぜ経理と相性がいいのか
経理の仕事には、手順が決まっているのに手作業で繰り返している業務が必ず残っています。私が見てきた範囲でも、こうした場面は多くの会社にありました。
- 複数のファイルに分かれた売上データを、毎月同じ手順で1つにまとめている
- 形式のバラバラな明細を、会計ソフトに取り込める形へ整え直している
- 補助科目ごとの残高を、期末に手作業で突き合わせている
どれも「面倒だが判断は要らない」作業です。こうした処理はAIエージェントが得意とするところで、うまく使えれば時間のかかっていた作業が大きく短縮できます。そして削減した時間の分だけ、検証や分析という判断の仕事に回せます。
ツールの名前を挙げられるだけでは強い材料になりません。評価されるのはどの業務を、どう変えたかを具体的に説明できることです。小さな作業ひとつでも、自分で自動化した経験があれば、そのまま話せる材料になります。
何から始めるか
プログラミングの学習から入る必要はありません。いまのAIエージェントは日本語の指示で動かせます。まずは自分の手元にある作業を1つ選び、それを任せてみるのが早道です。
ただ、この分野は独学の入口がつかみにくいという難点があります。情報が出たばかりで、体系立った教材が少ないためです。環境の準備でつまずいて終わってしまう、という話もよく聞きます。
そこを省きたい場合は、AIエージェントに特化した学習サービスを使う方法もあります。筆者が確認した範囲では、Claude CodeやCursorの使い方を、非エンジニア向けに扱う講座もあります。
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月額制のサービスは、使わない月も費用が発生します。まず学習の習慣がつくかどうかを見極めてから、継続するか判断するのが確実です。またAIツールそのものの利用料が別にかかる場合があります。申し込む前に、費用の総額を確認しておくことをおすすめします。
あわせて押さえておきたいこと
AIエージェントが軸になるとはいえ、経理としての土台は必要です。次の3つは、実務のなかで身につけられます。
| 身につけるもの | なぜ評価されるか |
|---|---|
| クラウド会計ソフトの操作と設定 | 導入済みだが使いこなせていない会社が多い。設定を直せる人は重宝される |
| 電子帳簿保存法・インボイスの実務対応 | 法令対応は避けられず、社内に分かる人がいない会社が多い |
| 自動取込・読み取り結果の検証 | 自動化した会社ほど「合っているか誰も見ていない」問題を抱えている |
3つ目に挙げた検証は、AIエージェントを使うほど重要になります。自動化すればするほど、出てきた結果が正しいかを判断できる人の価値が上がるためです。ここは経理の知識がある人にしかできません。
職務経歴書での書き方が変わる
同じ経験でも、書き方で伝わり方が変わります。次のような書き方は、担当した範囲は分かるものの、何ができる人なのかが伝わりません。
- 仕訳入力、月次決算補助、経費精算を担当
同じ経験でも、こう書くと読まれ方が変わります。
- クラウド会計への移行にあたり、銀行明細の自動取込ルールを整備。手入力の件数を削減
- 電子取引データの保存方法を社内で統一し、検索要件を満たす運用に変更
後者は「作業をした人」ではなく「仕組みを直した人」として読まれます。倍率が1倍を割る市場では、この差が効きます。
未経験からの応募でも考え方は同じです。前職で「手作業を減らした経験」があれば、それは経理でそのまま通じます。集計を自動化した、紙の管理表をデータに置き換えた——業種が違っても、採用側が知りたいのは面倒な作業を改善しようとする人かどうかです。詳しくは未経験でも事務職に転職できるのかでも触れています。
厳しい数字から入りましたが、悲観する話ではないと考えています。倍率が下がっているのは多くの人が同じ準備をしているからでもあります。減っている作業ではなく増えている仕事の側に軸足を置けば、競争相手はぐっと減ります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の転職判断や採用結果を保証するものではありません。記載した統計は執筆時点で公表されているものに基づいており、月次で更新されます。最新の数値は出典元をご確認ください。
参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)について」/国税庁「電子帳簿保存法関係」
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